第12回なかの国際ダンスコンペティション決選 講評
決選 2010年9月19日(日)20日(月・休) なかのZERO小ホール
審査員
薄井憲二((社)日本バレエ協会会長)※ジュニア2以外
うらわまこと(舞踊評論家)
片岡康子(お茶の水女子大学名誉教授)
安達悦子(一般財団法人東京シティ・バレエ団芸術監督)
(なかの洋舞連盟)
会長 正田千鶴((社)現代舞踊協会常務理事)
副会長 賀来良江((社)全日本児童舞踊協会常務理事)
理事長 小林容子(小林容子ダンスカンパニー‘y’主宰)
渉外担当理事 斉藤千雪(ダンス・エレマン主宰)
相談役 寺村敏(舞踊評論家)
スカウト審査員
井本篤((株)トゥルーフェイス)
松本隆治(グラフィックデザイナー)
松川さやか(潟eレビマンユニオン ディレクター)
青柳ひで子(劇集団 劇派 女優)
黛芳夫((株)バウンドプロモーション)
コンペティションを審査して
うらわまこと(舞踊評論家)
今、わが国の舞踊コンクールの数は大変なもの、いまだに増え続けています。
12回を迎えた「なかの国際ダンスコンペティション」は、そのなかでも、非常にユニークな特徴をもっています。それは大きく2つになると思います。ひとつは、「スカウト審査員」として、メディアや広告、他の芸術分野の専門家に見てもらって、将来の仕事の可能性、プロとしての道筋をつけようにしていること。採点はしませんが、ブラボー賞を選び、アドバイスをし、才能を育て、見出だす、タレントスカウトの役目。参加者にとって役に立つだけでなく、舞踊界全体にとってとても重要なものです。
もう一つは、ダンスやダンサーを決めるのはダンスのスタイルや年齢ではない、という考えを強く表面にだしていること。すなわち「技術」、「個性」、「芸術性」といった一般的にな審査要素に加えて、「ダンサーの輝き」、さらに「見る人に感動を与えることができるかどうか」という視点を加えて審査するのです。このため具体的には、まずクラシック、モダン、ジャズ、民族などのジャンルを問わずに一括審査します(これとは別に創作部門があります)。また年齢的にはジュニア(1,2)とシニア部門に分けますが、ジュニア2は小学校6年以下なん歳でも、シニアは高卒以上制限なしというように範囲を大きくとっています。つまり制度的にはあらゆる年代の人が参加できるのです。
この考え方には基本的にはまったく同感です。私もつねにジャンルやダンススタイルにかかわりなく、大切なのは良いダンサーかそうでないか、良い作品かそうでないかであり、重要なのは見る人に感動を与えられるかどうかだ、と思い、話しています。また、現実にもクラシックやモダンなどジャンルの垣根はどんどん取り払われてきています。
ただ、この考えをコンペで実行するのはなかなか大変です。「ダンサーの輝き」やとくに「感動」に点をつけられるか、さらに「技術」や「表現力」について、バレエ、モダンダンス、あるいは民族舞踊のダンサーを比較するのは並大抵のことではありません。私自身は、コンペである以上、まず技術と作品の表現力を重視し、クラシック、モダンなど、それぞれのダンススタイルでその年代にふさわしい望ましいレベルを想定、そこへの到達度ほ基本に、ダンサーの魅力と作品全体のアピール度を考慮して採点しました。しかし、評価は個々の審査員の主眼に負うところが大きくなるのはやむを得ないこと。審査員が変われば順位も変わるかもしれません。もちろん、それを超えた素晴らしいダンサーが望ましいし、今回もそういうダンサーもいました。
以上のような前提で、ジュニア、シニア部門について、私見を述べておきます。
[ジュニア2](小学校6年以下)37作品(韓国1) 決選進出率約46%(韓国は別にビデオ審査)
年齢からいって児童舞踊スタイル(子どもらしさを生かした作品)が目立ちます。そのなかでも、踊り込んだものが強い印象を与えます。1、2位の堀内翼、堀内朔良『月の砂漠』、植木晴花『神様が泣いた日』がそうです。3位の小澤早嬉『スゴン ―布―』もしっかり作品を表現、こちらは年齢を超えた落ち着きがありました。作品表現にもう一工夫ほしいですが杉本舞花『花の褥は流れる』、小林このみ『タンバリン』もこのタイプ。荒川玲奈『月夜にひらく棘ある花』は素材としてとても魅力的で、「ブラボー賞」もまさにむべなるかな。
どの部門にもいえますが、とくに年齢の低いダンサーの場合、技術、表現の完成度は低くても、ダンサーの特性を生かした作品、一生懸命踊っているのが伝わるダンサーが印象に残ります。この点でクラシックは基礎からきちんと積み上げなければなりませんので、その点を評価する必要があります。
[ジュニア1](中・高生)43作品(韓国6) 決選進出率43%(除韓国)
この年代は最も技術力が身に付く時期であると同時に、そろそろ体型が変化する時期でもあります。進学も問題もあり、この期間で将来がほぼ決まります。この部門の上位は、動きの魅力の菊地愛美『chaos』、繊細な表現の久保愛梨『化身−須弥の峰にありて−』、そして作品メッセージの明確な薄田真美子『蒼氓−我を探す』、それぞれ特徴がありました。続く渡辺はるか『八日目の蝉』、たけだ有里『芽吹きの期を待つ』、加賀詩織『flower―ココロノハナ―』はしたたかな技術が目に付きました。6位のShin So Yeon『One more』は韓国のダンサー。韓国からの参加者は、ほとんどが高い身体能力をもち、単なる技術のコンペならもっと高く評価されるかもしれませんが、やや表現が粗く、作品としてもうひとつアピール性に欠けます。クラシックでは浜島佳菜『ダイアナのVa』、「ステップをつなぐ」から「踊る」の段階に入っていました。仏像を感じさせる木田瑛里香『蓮華の柵』は小柄ながらアピール性があり「ブラボー賞」、なかなかよいところを見ていると思いました。
[シニア部門](高卒以上)41作品(韓国9) 決選進出率43%弱(除韓国)
ベテランというか、舞台経験の長いダンサーが上位を占めました。そのなかでは比較的若い新保恵『ココロ吐キカクル蝣』が1位、彼女はしっかりしたシャープな動きと訴求力をもっています。ただ、タイトルは?一般的にいって、凝りすぎた、分かりにくい、審査員にどういう意味だろうと考えさせられるタイトルはどうでしょうか。続く森本なか『響け叫びの果てまで』はスケールの大きい表現と動きが特徴、作品もまとまってきました。3位は大ベテラン花輪洋治の『花輪洋治』。開き直ったタイトルですが、まさにそのとおり自分自身への思いを表現。彼などはまさにこのコンペだから出場でき、評価される存在でしょう。高い技術で美しくまとめたのが幅田彩加『闇に歌声』、赤石賀奈子『星空の歩き方』。この部門になってようやく目に付くようになった日本人男性では、これも中堅の域に入った上原かつひろ『檻』が、激しい表現力を見せました。「ブラボー賞」のKim Min Woo『霧を払い除けて』は説得力ある演技で男性ではベスト。クラシックでは韓国のKim Sung Bunが『ドン・キホーテの森の女王』(The Queen of the Dryads)で素晴らしいプロポーションとしっかりした技術を見せました。トップを争ってよいと思いましたが、モダンとの表現の質の差でしょうか。布目紗綾『海賊』も、ややおとなしかったきらいはありましたが、きちんとまとめました。
現在のコンクールの傾向として、ジャンルはもちろん、男女を分け、年齢も細分化し、ソロと群舞も別にする方向のなかで、このコンペは極めてユニークで貴重です。しかし、この狙い、趣旨を生かすには、審査員のしっかりした視点、たとえば舞踊観、芸術観、さらに社会意識が極めて重要であるということを強く感じました。また、参加者、指導者にもそれをさらに望みたいと思います。
第12回なかの国際ダンスコンペティション(2010)
創作部門・決選講評
片岡 康子(お茶の水女子大学名誉教授)
「なかの国際ダンスコンペティション」はあらゆるダンスを対象に、あらゆる年齢層、障害者にも門戸が開かれている唯一の国際ダンスコンペティションです。今回もコンテンポラリー、モダンダンス、ジャズダンス、バレエ、インド舞踊、韓国舞踊、タンゴなど多種多様な31作品が決選に登場しました。
8月上旬に行われた創作部門予選の講評の中で、当コンペティションを立ち上げ、長年審査をされてきた正田千鶴先生(なかの洋舞連盟会長・(社)現代舞踊協会常務理事)は「実験精神にあふれたオリジナリティーのある作品が少ないと思います」と感想を述べられています。とはいえ予選から決選まで1ケ月余の期間があったのですから、みなさんはかなり作品を練り込んで決選の舞台に乗り込んできたであろうと期待に胸はずませて審査員席に着きました。
さて一般的に創作コンペティションの審査員は作品の何をどう観るのでしょうか。評価点数の高低は何に左右されるのでしょうか。予選通過した31作品の中にあって、印象に残る作品、心が動かされる作品、もう一度観たいとさえ思わせる作品とはどのような作品なのでしょうか。
創作コンペティションではオリジナリティーが最も重視されます。作品のテーマが絞り切れていなければ、動き、音楽、衣裳、小道具などの関係が希薄で、始まりは良くても中盤・後半への展開・構成の迫力が落ちていく場合が多いのです。やはり、作品のテーマを絞り構想する段階での吟味が鍵となります。漠然と動き出さずに、踊りたい欲求のままに走り出す身体を押し留まらせ、試みたいテーマを確認しながら深める作業が大切です。その点、上位入賞作品は、作品の着想が良く、動き、展開・構成も斬新で、訓練された演者によるパフォーマンスも優れていました。つまり、独自の切り口で作者の持ち味を生かし、演者がその意図を理解して踊りきっている作品であったということができます。
さて、今回、審査員の一人として講評を依頼されました。批評家ではありませんが、これからもダンスという広い領野に創作性という視点から立ち向かい続けてほしいという願いを込めて簡単な講評を述べたいと思います。言うまでもなくダンスのコンペティションは主観審査ですから、審査員が変われば評価も変わることでしょう。そのことを承知してお読みください。決選出場者の皆さまは勿論のこと、当日の観客の皆さまをはじめHPを読まれる方々にとって、何らかの示唆となれば幸いです。
【なかの洋舞連盟賞受賞作品】
第1位「東京Collage(+n)」(池田素子)
優れた技術を駆使した、奔放ながら力みも乱れもないパフォーマンスで自作自演の真骨頂を示したソロ作品。動き、衣裳、小道具、音楽、すべてが一体化した見事な展開の後、素早い小道具の変換でマイルームにくつろぐシーンとなるラストは心憎い演出であった。
第2位「紅」(上原かつひろ)
一人の男と二人の女が壮大な音楽に乗って繰り広げる愛の関係。3人ともに強靭な身体とテクニックの持ち主であり、踊りのパワーで観る者を圧倒する。日常的仕草を織り交ぜたリアルさとその奥に潜む虚構が交錯する面白さが印象的であった。
第3位「そっぽを向くことができない・・・」(Ahn Kyung Mi)
白い仮面をつけた男女が雨の音をバックに踊り始め、やがて仮面をはずした女性は長身で柔軟な身体を活かして、仮面をつけたままの男性と韓国の歌をバックに踊る。いちずに求め続ける想いと韓国的抒情性が個性となった作品であった。
第4位「木霊」(西原礼奈)
アジアンテイストとも言えるエスニックフィーリングに満ちた個性的な群舞。荒削りではあるがそれが原初的でユニークな味わいを醸し出していた。
第5位「invisible gazer―ミエナイモノを視る」(柿下さやか)
鮮烈な色彩の衣裳、音楽、照明が、ダンサーが空間に彫り込む身体デザインを引きたてた。現実にないものを内なる眼で捉えようとする想像力に満ちた秀作であった。
第6位「蓮」(村松真衣)
白塗りの男女2人が踊る存在感のある作品。主題にふさわしい独自な動きの探求、展開・構成も見事で、静謐感に満ちた世界は強烈なインパクトがあった。
【入賞作品】
第1位「Death and the maiden」(杉木友里)
日本人と外国人女性のデュエット。白いドレスに身を包んだ長身の外国人女性の踊りは、象徴表現的モダンダンスの良さを感じさせる説得力を有していた。
第2位「CELL―XYについての考察―」(菊地尚子)―ブラボー賞も受賞
半裸のような衣裳で踊る男女のからまりは現実なのか、それとも顕微鏡でのぞいた細胞の世界なのか。胸や股間に触るセクシャルな次元を虚実の狭間で掘り下げた個性的な作品。
第3位「chain」(森本なか)
優れたテクニックを有した姉妹が踊る洗練された作品。2人の複雑な関係構図によって絆がもつ優しさと束縛、離れがたい結びつきなどを描きだした。
第4位「遠足」(Kim Ha Rim, Chae Soo Min)
韓国の高校生による明るく元気で楽しい群舞。オレンジのTシャツが若々しさを強調し、自転車や花などの小道具演出も効果的で、初恋のドラマを小気味よく描きだした。
第5位「gentle moon」(浅井永希)
椅子に座った女、そこに男が登場して始まる抒情的な愛のデュエット。月に誘われて溢れ出る愛の切なさを描いた夢のダンスであった。
第6位「隣の隣の隣のあの子」(戸張由理)
センターサスに一人だけ見える始まり。だが実はその後ろに隣のあの子が3人。出の工夫はとても面白い。3対1の関係性を絶妙な動きのタイミングを重ねて表現した。
【センターフィールド賞受賞作品】
「birthday」(花岡麻里名)
白い布の中に隠れていた二人の女性がハッピーバースデーの歌で登場。コンタクトテクニックで展開するユニークなデュエットは目をひいた。結末が殺人(?)とは意外。
「赤の焦点」(石原弘恵)
舞台中央を横切る赤い照明の中に横たわる鮮烈な始まり。赤い紐に結えられた両手首、限定された身体の動きや行為にこだわることで存在感を強めた。
「ルビコン河―渦―」(宮崎晃子)
小柄な少女と障害のある少年の二人が重大な決心をして踊ったと思われるダンス。コンクールとしての評価はわかれるが、「生きる」を舞台に刻むダンスであった。
「波に漂う女」(中村真澄)
下手前から上手後方に舞台を横切る構図。長い赤い紐と波のようなブルーの大きな布の演出は効果的だったが、それを活かす表現的動きをもう少し見つけてほしかった。
「you raise me up」(Kim Young Mi)
韓国の女性5人による群舞。タイトルは曲名で、何度も「you raise me up」と歌われる。十字架を切る仕草を交えて神へ捧げる祈りを踊った。
では次に惜しくも受賞を逃した作品を取りあげます。
「element of freedom」(宇山たわ)
優れた技術を有した5人の女性群舞。バレエ的動きをベースにコンテンポラリーな要素を加え、ユニゾンとカノンを駆使した変化に富む構成が魅力的だった。
「昨日のみちくさ、今日の歩幅」(滝本彩和子)
靴をたくさん抱えて登場し、軽妙なタッチの踊りで、ユーモアセンスのあるタイトルの世界を描いた。型破りな歩幅の工夫などがほしかった。
「―lag―」(山井絵里奈)
下手前に時計の小道具がある舞台、アラーム音などを用いて展開する作品。タイトル「−lag―」に意味的には接近できないが、不思議な感性をもっていた。
「闇を砕く」(慶野奈々恵)
黒いドレスをまとった演者は重々しいタッチのパフォーマンスで存在感を示した。闇を砕く破壊力のような要素が加わると表現はさらに深まると感じた。
「Gloria― 誇り―」(荒木陽一)
手先から足先まできめ細かに踊る情熱的なタンゴ・デュエット。小道具のランプのムードの中でひときわ盛りあがった。さらに創作性を極めたタンゴをぜひ見せてください。
「鯛焼きと海」(古木竜太)
逃避行を試みるサラリーマンを鯛焼きに見立てた作品。しかし風刺的・批判的にではなく、あくまでも温かなユーモアに満ちたダンスとして描いた。
「祈り」(山元彩子)
4大インド舞踊の一つであるカタックダンスの複雑なステップを3人の女性が踊った。創作性の評価は難しいが足首に100個ずつ以上の鈴をつけて踊る伝統技法は魅力的であった。
「光」(鈴木絢香)
恋人のものと思われる黒い上着を持って踊り始める。上着(恋人)と対話するようなダンスでせつない苦悩を描き、最後には闇から光へと抜け出た心象を表現したと感じた。
「一粒の中の永遠」(田中悦子)
上手前から下手奥を照らすフットライトの斜めラインを強調したスペースを中心に、ナチュラルな動きで綴られたさわやかなダンス。二人の世界に留まってしまった点が惜しい。
「月の光」(関あゆみ)
白い衣裳とトウシューズ、ドビュッシーの曲にのって踊る詩的作品。抒情をこえて他者に何かを伝えることは難しいタイプの作品であった。
「受験大戦争」(畦地真奈加)
制服にはちまき姿、テーブル・椅子を小道具に使って、音楽に合わせて元気に踊った。しかし動きのリズムが単調で受験生心理の変化に欠けたように思う。
「Tarana」(前田あつこ)
鈴をつけた足の動きで多様なリズムを刻みながら目・首・手の動きを駆使して踊るカタックダンスのソロ。創作性という面での評価は難しい。
「Miracle」(神崎正成)
ジャズタッチのテクニックで笑みを浮かべて踊る、ショーダンスのような男女のデュエット。ダンシングに終わらない創作性の追求がほしいと思った。
「mosaique」(古町彩子)
キッチンで洗いものをしているかのような仕草的なシーン、やがて激しい動きとなり、最後はまたキッチン作業へ。工夫はあるものの意図不明に終わったことが惜しまれる。
以上、31作品すべてにそれぞれの主張はありましたが、強烈なインパクトを与えた作品は多くはありませんでした。ソロ(12作品)とデュオ(11作品)が大半を占めており、群による造形や構成の多様さを生み出せないこともインパクトを強められない要因かもしれません。自己満足の自作自演に陥らないためには「離見の見」をもって自己を問い詰める作業が必要でしょう。自分を磨くことによって、作品は磨かれると思います。
来年のコンペティションには、作者の個性や主張の違いが強烈なメッセージとなって観る者に届く作品、実験精神にあふれたオリジナリティーのある作品が数多くなることを期待しております。